念仏三昧 祇王寺
原文
祇王、「あれはいかに、仏御前と見奉るは、夢かや現(うつつ)か」と言ひければ、仏御前、涙をおさえて、
「かやうの事申せば、すべて事新しう候へども、申さずはまた思ひ知らぬ身ともなりぬべければ、初めよりして申すなり。
もとよりわらはも推参の者にて、出だされ参らせ候ひしを、祇王御前の申し状によつてこそ、召し返されても候ふに、女のかひなき事、我が身を心に任せずして、おしとどめられ参らせし事、心憂くこそ候ひしか」
…… …… ……
「仏御前とお見受けしますが、夢でしょうか」
祇王がたずねると、仏御前は涙を抑えて、
「今さらですが、申し上げなければ人の情けも世の道理もわきまえない女になってしまいます。
私が清盛様のお屋敷に押しかけて、お目通りが叶わなかったところを、祇王様のおとりなしで召し返されました。それなのに、祇王様が暇を出されて私が留めおかれました」
恩を受けた祇王を追い出すことになってしまい、仏御前は心苦しく思っていたという。
また、祇王がふすまに書き残した和歌「萌え出づるも 枯るるも同じ野辺の草 いづれか秋に逢はで果つべき」も、
涙ながらに歌った今様「いずれも仏性具せる身を 隔つるのみこそ悲しけれ」も、心に深く沁みた。
仏御前自身、いつ同じ目にあうかもしれない。
「そんなことを思いますと、清盛様のご寵愛がすこしも嬉しくはないのです」
祇王が、母やと妹と一緒に出家したと伝え聞いたとき、羨ましくてならなかった。
「この世の栄華は一時の夢。こうして、忍んで参ったのです」
頭からかぶっていた着物を脱ぐと、若い尼がそこにいた。
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