平教盛 赤間神宮所蔵
泣けど叫べど、漕ぎ行く船は、白波の尾を引いて次第に小さくなってゆくばかり。
今はまだそれほど遠くを進んではいるのではないけれど、涙にくれて船がかすんでゆく。
ふと思いついてように近くの丘に走りのぼって、いつまでもいつまでも沖の方を見やったまま、けしつぶのような船に向かって手を振った。
ほどなく船はまったく見えなくなり、日もどっぷりと暮れた。
しかし、俊寛は一人きりの小屋に戻る気にはなれない。
生きる望みさえ絶たれた気がしてきた。
寄せては返す波に足を洗わせながら、絶望の夜を泣き明かす。
泣き明かすと、日の出とともにわずかに気力が戻ってきた。
成経に一縷(いちる)の望みをかけた。
成経殿は情け深いので、いいように計らってくれるだろう。
清盛殿にわたしの助命を一心に頼んでくれるだろう。
他方、赦免されて都へ戻ってゆく成経と康頼は、平教盛(のりもり:清盛の弟で成経の義父)の領地である肥前の国(長崎県)鹿瀬の庄に着いた。
そこへ教盛から知らせがはいった。
「年内は波風が激しく、道中が覚束ない。春をまって帰京するがよい」
ふたりは、鹿瀬の庄で年を越した。
治承3(1179)年正月下旬、鹿瀬の庄を発ったが余寒がまだ厳しく、海も荒れた。
2月20日ころ、備前の児島に到着。
成経の父・藤原成親がいたという有木の別所を訪れた。
成親が、竹の柱や古びたふすまに言葉を書き残している。
「亡くなった人の形見として、筆跡に勝るものはない。書き残しておいてくれなかったら、どうして目にすることができただろう」
成親と康頼は泣きながら懐かしい成親の水茎の跡を読んだ。
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