しのぶれど 色に出でにけり
翌朝早く、羽田空港から電話があった。
福岡行きの一番機を待っていた友が体調を崩して、搭乗を取りやめたという。
わたしが空港に着いたとき、医師の手当てを受けたあと待合室の椅子に座っていた。
ある女性に矢も盾もたまらず会いたくなったのだそうだ。
一目見たときから面影が去らず、ずっと自分の胸のうちだけにしまいこんで、相手にも気づかれないままに恋していたのだ。
これを王朝文学でいう忍びの恋と呼ぶのかどうか、わたしには分からない。
ただ、式子内親王の歌をはじめ、忍びの恋を詠んだ歌を鑑賞するときは、いつも友を思い、彼の体験を借用している。
○しのぶれど 色に出でにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで 平兼盛
恋心をずっと秘めてきたけれど、顔や表情に出てしまっていたようだ。「どなたかを想っていらっしゃるんですか?」と人に尋ねられるほどにーー。
友の恋心はついに色には出なかった。
私も知らなかったし、彼女も気がついていなかったそうだ。
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▼忍びの恋 しのぶれど 色に出でにけり
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