アメノウズメは、踊っているうちに神がかりになった。
神が、神がかりになるのは至極当然のことだが……。
踊りはエスカレートし、アメノウズメのあられもない姿や動きが余りにもセクシーでおかしいので、八百万の神々は思い思いにはやしたて、大きな笑いの渦が高天原中にさんざめいた。
ちょうどその時、何羽ものにわとりが声をそろえて、「コケコッコー」、「コケコッコー」といっせいに時を告げたものだから、耳をつんざくほどのけたたましい騒ぎになった。
外のバカ笑いと喧噪を不審に思ったアマテラスは、「何ごとか」と戸をわずかに開けた。
すると、岩戸の前でアメノウズメが、ほとんど何も身につけずに腰をくねらせている。
「ウズメよ。太陽神であるわたしは岩戸に隠れていた。髙天原も地上も真っ暗なはず。おまえは何が面白くて踊っているのか。ほかの神々はなぜ、あんなに笑い転げているのか」
「アマテラス様より尊い神様がいらっしゃったからです。みんなで喜んでおります」
アマテラスの目の前に、真榊の鏡が差し出された。
そこには、なんとも高貴な神の姿が映っている。
アマテラスは、鏡のなかの顔をよく見ようと思わず身を乗り出した。
その一瞬、岩戸のわきに隠れていた力自慢のタヂカラオがアマテラスの手をつかんで、怪力でぐいと外に引っぱり出した。
そしてすぐにフトダマが岩戸に注連縄(しめなわ)を張って、「これで二度とお隠れになることはできません」と岩戸の前に立ちはだかった。
そのとき、タヂカラオが力任せに岩戸を開けた勢いで戸がはずれ、外れた戸はしばらく空に弧をえがいて地上に落ちた。
落ちたところが信州(長野県)の戸隠山で、そこには今も戸隠神社が鎮まっている。
こうして、髙天原も地上もふたたび光をとりもどした。
笑いが、世界の再生ともいうべき力を発揮したのである。
神々は、以前にもましてアマテラスを崇めるようになった。
お手柄のアメノウズメは、芸能の神となり神楽の祖となった。
さて、高天原が暗黒の闇となり大きな騒ぎになったのは、元はといえばスサノオの傍若無人な振る舞いが原因だ。
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