お節介なマナー指導
黒メガネはしきりにネクタイに手をやったり、ポマードを塗りつけた髪を手の平で撫で付けたりしている。
わざとらしさが軽薄の感を否めず、頭のてっぺんから靴の先まで、紳士気取りが丸見えだ。
まさか、これがスペイン流のだて男ではあるまい。
闘牛とフラメンコの国にしては軟弱ではないか、と内心おかしかった。
それにしても、この胡散臭い男はいったい何者なんだろうと三太郎がいぶかしく思っていると、だて男はテーブルの上にあったナイフとフォークを手にした。
そして、これがスペイン流のナイフとフォークの使い方だのエビのむしり方だのと、身振り手振りたっぷりに教示しようとする。
教えてくれと頼んだ覚えはないと断ると、これは当店のサービスだからという。
お仕儀せがましさが、不愉快であり、不可解でもあった。
しかも、他のテーブルには、この手合いはいない。
流暢すぎる英語も不自然だ。
母国語のようにしゃべる。
背丈のことと言い、もしかしたら目の前の男、本当はスペイン人ではなくアングロ・サクソンかも知れないなと三太郎は思い始めていた。
白人であることには間違いない。
イギリス人か、あるいはアメリカ人か。
「スペイン流テーブルマナーの指導」を強く断る理由もなく、最後まで付き合ってしまった。
そして小一時間後、食事を終えた三太郎は、目の前の勘定書を手に取った。
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フラメンコ入門/鈴木 真澄
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だて男 ⑥スペイン流テーブルマナー
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